雨の日:樹木の下の泡


 樹幹流と泡

弱い雨の降る中、君津市と富津市の境界を成す稜線を
目指して山に入った。 途中、モミの木の根元に白い泡の
塊があるのを見つけた。 まるで泡立てた石けん水の
ようだ。 白い泡はモミの幹に沿って筋状に上方から
続いている。 泡の筋はそこそこの速さで流れ下っている。
これは「樹幹流(じゅかんりゅう)」である。
森に降った雨の多くは木々の枝葉に当たった後、
しずくとなって地表に落下する。 このように
林内の空間を落下する雨水を「林内雨(りんないう)
」という。 しかし、一部の雨水は林内雨とは別に樹木
の幹を伝って流れ下る。 これを「樹幹流」という。
樹幹流にはいろいろな物質が溶け込んでいる。
なぜなら樹木の枝葉や幹にはさまざまな物質が付着して
いるからだ。 それらは大気中を漂う微小な粒子や樹木自身
から分泌された成分などで、泡の元になるような
高分子も含まれていると思われる。 森に降った雨水は
まるで樹木を洗うシャワーのようにこれらの
物質を溶かして流す。 この日見つけた泡は、樹木の
付着物が溶け込んだ樹幹流が泡立ったものだろう。
しかし、こんなに目立つほど泡立った樹幹流を
見かけることはあまりない。 きっとよく泡立つには
条件があるのだろう。 たとえば、雨が強すぎれば
樹幹流の水量が多すぎて溶け込む物質の濃度が
薄まってしまうはずだ。 逆に雨が弱すぎれば
樹幹流が少なくて泡立つほどの流れを作らないだろう。
また、前回の降雨から時間が経っていれば、それだけ樹木
に付着した物質も多いはずだ。 この日の雨は樹幹流が泡立つ
条件が揃っていたようで、根元に泡を溜めた木が他に
もいくつか見つかった。                                    
                    引用 (尾崎煙雄)                                                    
                                          
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